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「抜き」で一杯/賄いごないしょ玉子の蕎麦

<<   作成日時 : 2008/05/01 04:16   >>

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「抜き」をご存知の方は良くご存知でしょうが、不思議と知らない方はまぁ当然知らないという、昔から蕎麦屋にはあるものなのですが、これは品書きというよりも種ものの提供方法のひとつなのです。この「抜き」をあてに板わさなどを一緒に注文し御酒を軽〜く頂いてから、〆にせいろをつる〜っとたぐる。これぞ蕎麦屋の粋ってもんで御座いましょうか。

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たとえば天ぷら蕎麦の「蕎麦を入れないで」汁と天ぷらだけで注文する。蕎麦が抜けてる天ぷらなのでこれは「抜き天」。鴨南だと「抜き鴨」、とろろだと「抜きとろ」、玉子とじだと「抜きとじ」。かけだと「汁だけ」これは冗談(笑)。
私が若かった頃は、多くの蕎麦屋で酒肴は数品しか置いていないのが普通で、大体が焼き海苔や板わさ位な物でした。手間をいとわない店では玉子焼きやそばがき等をやっていましたが、種ものから蕎麦を抜くだけの「抜き」は、蕎麦屋にとっても蕎麦屋の昼酒愛好家にとってももってこいの一品だったことが伺われます。
最近の蕎麦屋は酒肴を数多く作るようになった事も関係しているのかもしれませんが、「抜き」をご注文なされる方はめずらしくなりました。もっともこれはお店のほうでも品書きにわざわざ書き入れる事もありませんのでこれも致し方ない事なのでしょう。

さて、今回は玉子を使った種ものということで玉子とじの抜き「抜きとじ」に海老の天ぷらをのせて「抜きとじ天」を作ってみました。それが最初の写真です。
これがうまそうなんだなぁ〜。作り終えてから我慢できずにゴメンなさいしてちょっと一杯やってしまいました。温かい汁に溶けた天ぷらの衣とふわっとした玉子がコックリしていて冷酒に良く合うのですよ。改めて、「抜き」の醍醐味をしっかり味わいましたよ、うまいんだなぁ〜これが。
「玉子とじ蕎麦」は以前に一度、種ものの記事の中で作り方をご紹介しているのですが、今回は別角度で写真を撮り直してみました。
かけ汁にもり汁を少し加えて火にかけながら、沸き立つあたりを見計らって箸で勢い良く汁を廻します。鍋の中心の底が見える位勢いをつけます。熱が低いと汁が濁る原因になりますから良く沸かす事がポイント。
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良く溶いておいた玉子を対流にのせるように流し入れます。
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玉子に火が通り切る間際に火を止めます。熱を加えすぎると余熱で玉子が固くなります。
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器に一気に流し込むように移します。躊躇していると玉子の形が崩れてしまいます。
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卵が安定した安価の現在では玉子を使った蕎麦も、もはや品書きの中に加えている事がつらい時代かもしれません。私は自分の店で玉子の蕎麦を売った事は無いし、商品として特に手打ち蕎麦店に於いては玉子の蕎麦は、すでに成立しないアイテムになっていると思います。しかし、この手軽で滋味あふれる玉子を使った蕎麦は、修行中から今日に至るまで現在進行形で様々に調理しながらいつも作って食べております。自分のために作る蕎麦の食材として玉子は誠に有り難い存在なのです。

蕎麦屋の昼食は当然、蕎麦を食べる事が多いのですが、毎日同じ蕎麦では飽きてしまいますので修業中は各自それぞれが、「許される範囲」で好きな物を作ったりしていました。生玉子をもり汁に割り入れ、揚げ玉ごっそりなんというのもあったりしましたが…(本当はこれが好き)。賄いは別名「ごないしょ」ともいいまして店の品書きには無い、今風にいえば「隠れメニュー」「裏メニュー」などといったものがあったり致します。中には信じられないような絶対ににおないしょにしておきたい物がでてくることもありますが、たとえどんな物が出てこようとそこは、忙しい昼の営業が終わった後のひと時の楽しみでもありました。

玉子の蕎麦の代表は何といっても「月見蕎麦」でしょう。
今では立ち喰いそばの必須アイテムですが、江戸の昔には秋の風流蕎麦でした。
蕎麦と器を温めます。店であればと器は釜の「前銅こ」で温め、蕎麦は振りザルに入れて釜の湯を通して温めるのですが、こうして器に熱湯を入れて蕎麦と供に温めれば家庭でも手軽に出来ます。
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海苔を敷きます。
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玉子をそっと乗せます。
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汁を良く沸かしレードルやお玉で玉子の黄身にかけて行きます。この時に白身にかけると玉子が破れて汁が濁りますのでひたすら黄身にかけてください。
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出来上がり。「月にむら雲、黒板塀に見越の松」月見蕎麦はお江戸の粋な種ものです。
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 最後は「かき玉」ですが、さてこのかき玉は本来は蕎麦ではなくうどんで供されるきまりがあります。また、かき玉に限らずとろみをつけて「餡」仕立てにするものは「台」(蕎麦やうどん)はうどんという事になっています。この場合は、蕎麦屋の通し言葉では「かきたま台替り」といって厨房に通すわけです。うどんが蕎麦に替わりますというわけです。逆に通常は蕎麦で供される玉子とじをうどんでと通す時は「とじ台替り」というのです。
片栗粉等でとろみをつけます。
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汁を熱してとろみを調節します。
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溶きほぐした玉子にごく少量の水を加えます。こうすると玉子のキレが良くなり汁と合わさった時に玉子がきれいに仕上がります。
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鍋をコトコトと揺さぶりながら玉子を加えます。
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お好みで仕上げにワカメを入れて。
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温めた蕎麦にかけます。この時に鍋に玉子が付いていなければ合格です。もし鍋底に玉子がこびり付いていたら、とろみのつけ方か玉子の加える時期や温度に問題があったわけです。
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「かき玉」は玉子が羽衣のようにたなびいてこそ、その面目ありでしょう。
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簡単なようで難しいのが玉子を使った料理一般にいえること。
たかが玉子の蕎麦といえどもこころして作らなければ、決してじょうずには出来ません。
玉子はやはり熱の加え方が出来上がりを決めるポイントのようです。相手は「簡単難し」の玉子ですからそこはもし、あなたがうまく作れなかったとしても、そしてとんでもない物を作ってしまったとしても自分で食べてしまえば賄いの蕎麦ですみますから。ごないしょに…ごないしょに…

器提供 工房ゆらぎ 松本昌樹氏 足立直子氏

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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
そばが好きです。
食べることも好きだけれど
今度は打ってみたいです。
そんな気にさせてくれる
綺麗なそばがいつも楽しみです。
お店で食べられるのでしょうか?
教えてください。
ソルト
2008/05/01 10:20
抜きで日本酒いいなー、写真を見ているとなんだか飲みたくなってきました。
それにしても永山先生の文と写真は蕎麦の魅力をすばらしく上手く表現しておられますね。
連休にたまごとじに挑戦してみようかな。
ヒコベー
2008/05/01 23:02
思い出します。
玉子を綺麗に散らす事の難しい事!

火加減・落し方・かき混ぜ方、難し〜いッ
更に片栗でとろみを付けるのも、偏ってしまうんです。

上海鍋と鉄柄杓を使って造る、玉蜀黍の溶き玉子スープを思い出しました。

しかし、美味そうですね!!!

おちげ
2008/05/01 23:25
ソルトさん、はじめまして。
楽しみにして下さってありがとう。記事の書きがいがあります。
この1年、逢う方々が異口同音に「お店いつ再開ですか?」といわれます。申し訳ないのですが現在は、店の営業は休止中です。
いろいろと店のお話は頂いており、現在計画中です。
永山
2008/05/03 01:02
酒といえばヒコベーさんの登場です。
昨夜は、四十年ぶりに小学校時代の同級生達に会いまして、嬉しくて飲み過ぎました。
玉子とじはインスタントラーメンでも結構いけますよ。
永山
2008/05/03 01:10
おちげさんは元々、中華料理の専科の出身でしたね。
私自身は、中華料理が一番好きなのですが蕎麦で何か良いアイデアありませんか?
炎の蕎麦打ち師「おちげ」による「中華は炎の芸術」!
こっちの迷人になっちゃいましょう!!!
永山
2008/05/03 01:22
 永山 様
 ご無沙汰しておりました。

天ぷらが好きですので
永山さんのブログを拝見して天ぷらを揚げてみました。油はごま油をブレンドし、エビ、椎茸、ししとう、ナス。最後は玉ねぎと人参だけのかき揚げでした。
 営業時間中に揚げたので、
お客様に『天ぷらの修行中デース』と言って数品ご試食していただきました。
『サクサクして天ぷらを食べてるって感じだねー!。』などとご好評いただきましてが、まだ素人の域は抜けられませんね。

かき揚げはサクサクしなくてやはりうまくいきませんでした。

この先7月頃から地元の漁港で車海老が取れるようになります。その頃にはうまく揚げることができるようにいろいろ頑張ってみます。
 
 『今度はかき揚げをお願いしまーす。』

  http://plaza.rakuten.co.jp/yakitorigon
ごんべえ
2008/05/03 14:43
いや〜、ごんべえさんお久しぶりです。
赤坂開店以来ですね。
直線距離だったらすぐ近くに住んでいるのに間に東京湾がありますから、なかなかお会い出来ないです。
かき揚げは昨年の11月に二回に分けてやっておりますので、そちらをご参照下さい。
永山
2008/05/03 23:53
今まで立ち食いでしか食べたことの無かった月見蕎麦ですが、玉子を入れてからツユをかける方法には驚きです。月に霞がかかっているようになり風流ですね。
Yasu
2008/05/05 12:51
「抜き」をあてに板わさなどを一緒に注文し御酒をイッパイ?頂いてから、〆にせいろをつる〜っとたぐる。これぞノンベ〜の粋ってもんで御座いましょうか。

相変わらず永山先生の文章は生きていますね
(一寸文章を我流にしてしまいました)
レインマン
2008/05/06 08:32
卵を使った蕎麦おいしいですよね。月見蕎麦の正しい作り方ためになりました。海苔がポイントですね。
ほんとにためになります。
カズコウエンジ
2008/05/07 12:43
玉子は身近でありながら、そばに限らずこと調理に関しては難しい食材でもあります。
でも、玉子大好きです、だってオジさんですから!
私の子供達などは玉子の料理を喜ばないのですが、そこえいくとオジさん達って妙に玉子の料理好きですよね。
Yasuさんやレインマンやカズがオジさんかどうか知りませんけれど!!
永山
2008/05/11 01:19

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