蕎麦道具夢語り/木鉢・陶鉢 木鉢の仕事
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作成日時 : 2008/03/20 23:54
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包丁三日、延し三月、木鉢(生地作り)三年。昔からいわれているように木鉢仕事は蕎麦打ちの大切な要。蕎麦作りにおいて重要な要素の水廻し、練り、くくりまで木鉢で行われます。一般の方々にとって蕎麦道具といったら何といっても打ち場にデンと置かれた「木鉢」なのではないでしょうか? その姿は蕎麦道具の中でもひときわの存在感を放っています。
この木鉢の生地は栃の木です。直径二尺三寸。独特な妖しさ? がただよっています。表面に施されている漆は年を経る毎に朱色の色あいが深みを増してきています。
この鉢の外側は拭き漆で鉢の木質が見えるように仕上げてあります。
蕎麦切り包丁の柄を漆で仕上げると滑りにくくなります。表面が滑らかでどちらかといえばつるつるとした肌触りの漆塗りが、何故滑りにくいのでしょうか。これは漆の表面に粉がまとわりつかない性質があることに関係しているらしいのですね。握り柄に粉が付着せず包丁を握る手と柄の間に粉が残りにくいことでグリップ力が高まるようです。近年は、ウレタン塗装の捏ね鉢が出回るようになりました。蕎麦の打ち手として私はウレタン塗りと漆塗りとの差を「粉の走り」具合に感じるのですが、はたしていかがなものでしょうか。
漆は走る! 確かに漆塗りの鉢は、粉が走り易く作業性も良いようです。
この木鉢は二尺一寸でやや深い形をしています。内朱で外側は黒い漆が全体に掛っています。高めの木鉢台に備え付けてありますので腰への負担があまりありません。
一連の木鉢作業の流れをこの木鉢を使ってザッと追っていきましょう。
蕎麦粉を篩い入れ、平たくならして加水をします。加水量はあらかじめ想定した量のおおよそ80%です。指を立てるようにかき回していきます。
巴を描くように蕎麦全体を廻しながら、様子を見て残りの水を加えます。
粒が大きくなってきたら一つにまとめて生地を内側に折り込むように「菊練り」します。
生地に艶が出てくるまで練り(つらだし)ます。
生地を球形にして空気を抜きつつ口を閉じます。鏡餅のようにつぶして木鉢作業の終了です。
さて、この古い木鉢はもう三十年近く前に手に入れた物。私の手入れが悪かったために漆の艶がすっかり失われて傷めてしまいました。一時期は、鉢の生地にもヒビが入ったりもしていたのですが、自然にふさがってしまいました。時間があれば、なんとかカシューで塗り直しをしようとは思っているのですがなかなか叶わずにいる次第です。
この鉢は銘入りの陶器製です。直径53cm。実際に蕎麦打ちやうどん打ちに用いるというよりはやはり装飾的なものでしょう。ヒビを入れずに焼く事が大変に困難だったそうで、数個しか完成しなかったと聞いています。それゆえに大切にしております。
そういえば今、思い出しましたが数年前にステンレス製の鉢を花火を打ち上げる如くに大宣伝しながら使っていた時期がありました。その事で人々から嘲笑と罵声を浴びせられたりしました。「永山は木鉢を捨てた」とまでいわれまして、正直大変なショックを受けた事もありました。直ぐに使用するのを止めましたが、時間が過ぎて思い直せば、あのステンレス製鉢もなかなか機能的だったようにも感じたりしています。ただし、何があってももう使いたくありませんけれど!
さすがに鉢となりますと押し入れの中からゴロゴロと出てくる位持ってますよとはいきません。それが逆に数少ないひとつひとつの鉢との長い付き合いになっているのです。特に痛ましてしまったあの鉢などには、胸がキュンと締め付けられるような様々な思いでがありますので。考えてみますと私などは、蕎麦道具を担ぎながら道具とともに今までの人生を歩んで来たわけですから、もっと大切にしなければいけませんね。
さぁ今夜は優しき鉢たちに乾杯でもしましょうか。
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