ロマンは蕎麦にあり〜スロウエイジング蕎麦

アクセスカウンタ

かけ汁/一杯のかけ蕎麦は…

<<   作成日時 : 2008/02/21 19:26   >>

トラックバック 0 / コメント 6

画像


今年の冬は寒いせいか温かい蕎麦がよく売れると知り合いの蕎麦店主の方々が口を揃えて話しています。温かな蕎麦の基本形がかけ蕎麦。その楚々とした姿に私は最近、潔さをも感じるようになりました。盛り蕎麦の存在感には及びませんが、薄口仕立ての温かな汁に浮かんだ蕎麦には蕎麦の持つ独特のやさしさがあるように思います。さあ、かけ汁を作りましょう。

私は薄口醤油を使った「かけ用返し」でかけ汁を作ります。
薄口醤油は濃口醤油より色は薄いのですが塩分が多いのが特徴です。酸化褐色変化によって色が濃くなってしまいますので「返し」は少量づつ作るようにしています。向かって左が薄口醤油,右が濃口醤油。こうして比べて見るとその色の違いは一目瞭然です。また、うす色醤油という濃口醤油の色だけを抜いた醤油もありますので混乱しないようにして下さい。
画像

閑話休題、濃口醤油のかけ汁も捨てた物ではありません。真っ黒だといわれる色のイメエジより塩っ辛くはないし、何といっても子供の時から食べていた哀愁がありますもの。汁がしみきって麺はのびきった出前のたぬきそばなぞは、今思い出してみればおいしそうじゃないですか。

薄口返しを作っていきます。
材料は、薄口醤油900ml、砂糖125g、味醂180ml。
作り方の基本は砂糖の割合が少なくなっている以外「本返し」と同じです。
蕎麦汁を知る・返しとだしの深〜い世界1「本返し」をご参照ください。
画像

最初に味醂を煮切ってアルコールを飛ばします。
画像

砂糖を加えて煮溶かします。
今回の返しには「上白糖」を使いましたが、「白双糖(白ザラ)」や「グラニュー糖」でもよいです。
画像

醤油を加えます。注がれる醤油の色がさすがにきれいです。
画像

醤油の量が少ないのですぐに沸いてしまうのを防ぐために弱火にかけます。
表面のに出てくる「マク」がこんな感じになったら火を止めて蓋をせずに冷まします。冷めたら冷暗所にて保存します。
画像

かけ汁を作ります。
まずは出汁を取りましょう。
薄口返しを使って汁を作る場合は、昆布と干し椎茸を使います。
薄口醤油は濃口醤油に比べて旨味成分が低いのでそれを補う意味でもグルタミン酸を多く含む昆布とグアニル酸を含む椎茸を使うのです。
材料は1リットルの出汁を取る場合、水1.2リットル、節50g、昆布5g、干し椎茸2g。
水に昆布と干し椎茸を入れて1時間以上おいてから火にかけ、湯温が気泡が出始める70℃位で昆布を取り出します。
昆布に爪が立つ位がおおよその目安。
画像

画像

昆布を取り出した出汁に薄削りの鰹本枯れ節と
画像

鯖の粉節を加えて一煮立ちさせて火を止め、晒等でこします。
画像

この出汁に対して「かけ用返し」を7〜10%の割合で合わせます。
返しと合わせたら沸騰させないように軽く火を入れます。
画像

私は返しを薄めに控えてその分、塩を加え味をしめるようにしています。
そうすることによって色も抑えることができるので上品な仕上がりの汁になります。
また、この塩が汁の味を変えてしまうところがあります。
それは逆に変化もつけられるので塩はいろいろと用意してあります。
最近は「バリの天然乾燥塩」が気に入っていて使っています。
手前の粒子の粗い塩が「バリの塩」です。
画像

味が決まれば最後にごく少量の味醂と酒を加えてかけ汁の出来上がりです。
画像


かけ蕎麦は茹でた蕎麦を水で洗ってからざるに入れてふたたび釜の湯に通して温めます。
この作業を「蕎麦を振る」といいます。この時に用いられるざるが「振りザル」でこの道具は江戸の昔より変わることのない姿で残っているのです。
蕎麦がしっかり振られていないと湯切れが悪く汁が薄まってしまい、せっかく丁寧に作った汁もぼやけた味になってしまいます。スナップをきかせてシャキと蕎麦を振る姿は釜前さんの意気の見せ所でしょう。
画像

国立・谷保の「きょうや」主人、中村さんによる蕎麦振り。
いよっ、かっこいい! あっ、ニヤけてる!
画像


ごくごくたまにかけ蕎麦の注文がありました。「かけ〜、かけ蕎麦かよ。金ないのかねぇ、せこい」厨房の奥で同僚たちと囁きあってクスクスしていたものです。
温かい蕎麦、特に何も具の入っていないかけ蕎麦のことを少し軽く見ていた時期がありました。仕事にも慣れだしたそんな頃、師匠のお宅にしばらくぶりに話を伺いに行ったおり「かけ蕎麦を注文されるお客様は怖いですよ」と師匠が話しだしたことがあります。
ポカンとして理由を尋ねる私に「かけ蕎麦の器の中には汁に浮かんだ蕎麦だけが見えますね。うまく打っていない蕎麦だとその姿だけで打ち手の技量が読めますよ」
「木鉢(蕎麦の練り)がしっかりしていなければ、盛り蕎麦ならどっこらしょとしていた蕎麦もかけ蕎麦だと情けないんじゃありませんか。容赦はないです、切れてしまいますよ」
う〜んなるほど、そういえばせいろに盛った蕎麦はなんていうかこんもりしていて蕎麦自体がはっきり見えないし、せいろに盛ってあることだけでなんとなく格好がついている気もしないではない。弁慶の衣装を着れば誰でも弁慶に見えるみたいなものかなどと納得していました。
「それにかけ蕎麦の汁は飲む汁ですから、よい材料をあやまたずに作らなければいけません。ごまかしがきかない汁です。確かめられているようなものです。だからかけ蕎麦の注文には特に気をつけなければいけないですよ。どうですか? そりゃー 怖いでしょう」
怖いです。でも、もっとも怖かったのは突然、かけ蕎麦を馬鹿にしていたことを見透かしたような話をされたことだったのですが。

ところでこのかけ汁、色々な汁に使えて便利です。特に冬の間は店では「鴨鍋」の下地で使いますし、我が家ではこの汁はもっぱら「おでん」の汁として登場しております。
画像

かけ汁をゼラチン等で固めてからスプーンで掻き崩して使うとキラキラとしてきれいな物が作れます。茹でたそば米と一緒に盛ればおしゃれな一品に。
「出汁ジュレそば米サラダ」
画像

蕎麦がたぐれないお年寄りにも目で楽しみながら召し上がって頂けるように考えた「刻みそば」
画像


師曰く「かけ蕎麦は怖いもの」で一杯の蕎麦なれど、とても侮るわけにはいきません。蕎麦屋にとっては恐怖の物語です。
「ご新規さん、親子三名様でーす」ご注文が入ります「かけ蕎麦一杯」…これは昔に流行った涙の童話でしたね。
画像

テーマ

月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL


コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
うっ! まそうなかけ蕎麦そば。
あ〜 食べたい!!

淡口醤油を使ったかけ汁、いいですね〜

何度か試みた事がありますが、塩加減が難しいです。
また、頻繁に造らないと返しが変色して味も変わってしまうのが ・・・

ところで谷保の「きょうや」のご主人、私に似てませんか?
ニヤけているところなんか?

あっ! 失礼しました。

一昨年までの私の勤務地が谷保でして、谷保神社の直ぐ近くだったんです。
おちげ
2008/02/21 22:46
おちげさんが谷保に勤務されていたとは初耳です。野暮天ですね。立川に住んでいた頃、谷保神社に落ちているムクノキの葉を拾いに行ったもんです。
永山
2008/02/22 17:08
呼ばれたようで出てきました(^^
なんときれいなかけそばでしょう。
透き通った甘汁の中に角の立った蕎麦がきれいに
泳いでおります。

旨そうだ。

永山先生のかけそばの写真そして文を読んで私もかけそばを食べたくなり土曜日に打った蕎麦を日曜日に
食べました。

が、

残念ながら薄口醤油の準備が無く結局ぶっかけにして食べてしまいました(-_-;
ヒコベー
2008/02/25 23:58
野暮天は決してヒコベーさんのことではございません。谷保の天神社の参道が本堂と少しずれているいることから江戸時代に谷保→やぼ→野暮になり野暮天になったそうでございます。むっ、少しずれてるいるのか、やっぱりヒコベーさんだ。ごめんなさいです。
永山
2008/02/26 23:50
かけ蕎麦の話し怖いです。
自分の仕事にもそういうことあると思えてきました!
寒気が・・・・。
昼はかけ蕎麦を食べながら反省しようかな。

>最近は「バリの天然乾燥塩」が気に入っていて使っています。
感激。。。。。
みや
2008/02/27 13:24
自分の仕事の基本要素(蕎麦屋でいうところのもり、かけ)をついつい甘く見てしまうことが、往々にしてありますよ。初歩的で技術面に困難さを伴わない作業ほど簡単に思ってしまい安易に進めてしまう。「手に職を持つ人」と呼ばれる業種の人間にとっては、実は自分の存在価値さえも問われるポイントなのですが、おざなりな仕事で流してしまうことが多いのも事実。基本を大切にすることが一番大切なのですよね。バリの塩は、味が柔らかく塩なれど優しい甘味すら感じる逸品です。
永山
2008/03/03 01:04

コメントする

ニックネーム
本 文